幼い頃に梨を譲った美談で知られる孔融。東漢末の文学者であり、孔子の20代目の子孫という特別な身分でした。しかし、その才能と高潔な性格が災いし、最後は悲惨な結末を迎えます。
16歳の時、孔融は友人を匿ったことで名声を得ます。兄の友人である張倹が追われる身となり、孔融の家に身を寄せたのです。しかし、事が露見し、孔融と兄は逮捕されてしまいます。孔融は自分が匿ったと主張し、兄は自分を頼ってきたのだと主張、母も自分が責任者だと訴え、一門が死を争う事態となりました。最終的に兄が処刑され、孔融は名を上げました。
では、なぜ孔融は殺されてしまったのでしょうか？
その理由は、孔融の傲慢な性格と、強い正義感にありました。彼は曹操の政治を公然と批判し、反発したのです。現代で言うところの「杠精（こうせい）」のような存在だったため、曹操の怒りを買ってしまいます。
曹操が荊州を征伐しようとした際、孔融はこれを諫め、曹操に叱責されます。孔融は不満を漏らし、それを聞きつけた人物が曹操に密告したのです。これを機に、曹操は孔融を「朝廷に不忠、仲尼に不孝」という罪で投獄し、一族皆殺しという極刑に処しました。
友人の脂習は、危険を冒して孔融の遺体を埋葬しました。曹操が孔融に与えた罪名は非常に重く、西晋の陳寿が『三国志』を著す際にも、孔融の伝記を立てることができなかったほどです。そのため、孔融は『三国志』において、最も有名な人物の一人でありながら、伝記がないという異例の存在となっています。
孔融の作品は大部分が失われてしまいましたが、彼の言論は当時と後世に大きな影響を与えました。孔融の処刑は、曹操が名士を殺した汚点の一つとされ、孔融が肉刑に反対した作品は、隋唐時代にも朝廷の政策議論の根拠として用いられました。
孔融の処刑後、曹操の使者が孔融を捕らえに来た際、孔融は幼い息子たちの助命を嘆願しました。しかし、息子の一人が「覆された巣の下に、無傷の卵があるだろうか？」と言い放ちます。その言葉通り、間もなく息子たちも捕らえられ、孔融一家は皆殺しにされました。
